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殯の森

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やっと観ました。河瀬直美監督「殯の森」。

33年前に亡くした妻を今も追い続ける認知症のしげき、幼い子供を亡くして自分を
責め続けるヘルパーの真千子。ふたりが過ごすグループホームではゆっくりと時が
流れる。
先輩ヘルパーの「こうせなあかん、てことないから」という言葉に象徴されるように、
ここでは誰も急かされない。否定されない。

河瀬監督の作品は「感じる」映画だと思う。
登場人物たちの様々な事情は多くは説明されず、会話のはしばしから、仕草から表情
から、人間を取り巻く大きな自然、風の音や木々のざわめき。そうしたものから、そ
れぞれがメッセージを感じ取る。

ふたりが迷い込んだ森は、生と死のあいだにある場所なのだろう。
その森の中で、生の実感を取り戻す真千子と、愛しい妻のため最後の仕事を終え、満
足そうな安らかな表情で横たわるしげき。
しげきの「土の中で眠ろう」という言葉が印象に残っている。

人が心の奥底に漠然と感じている老いや死への不安。その気持ちをすくいとり、形に
する。そのメッセージは決しておしつけがましいものではなく、観る人がそれぞれに
解釈すればいいのではないだろうか。
河瀬監督とは同い年。私と同じ年数しか生きていないのに、この感受性や表現力。
本当に凄い方だと思います。可愛い息子さんも生まれた監督の作品は、これからまた
違う方向にすすんでいくかもしれませんね。次も楽しみです。
by niji-no-tane | 2008-05-05 15:23 | 映画
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